人間は切れたらとんでもない力を発揮することがあります。
以前に古武術の師匠の言葉でご紹介したとおりです。
ストリートファイトや総合格闘技では、先に切れた者が勝つことがしばしばです。
驚いたことに、実はプロの交渉でも、かつてはこういう「先に切れた者」(あるいは「先に切れたふりをした者」)が勝ってしまったという例があるといいます。
「FBIアカデミーで教える心理交渉術 (BEST OF BUSINESS)」( ハーブ コーエン 川勝 久著)では、フルシチョフが、国際会議で顔を真っ赤にして怒り狂い、机を靴でどんどんと叩いて見せたそうです。
その会議では、旧ソ連に有利な結果に傾いたとかいうのですから驚きです。
(後日談として、フルシチョフはちゃんと靴を履いていたそうです。机を叩いた靴は誰のものだったのでしょうか?)
切れてしまうような人は、まともな交渉相手とは認められません。
ごり押しをするだけの人でしかありません。
その時点で、交渉はおしまいになります。
そんな相手からでも何かを引き出したいというのであれば、取りあえず彼らが落ち着くのを(切れたふりをするのを止めるのを)待って、彼らの言い値で取引するしかありません。
でも、きっとその後も同じようなことになるでしょうから、早晩手を切るのがよさそうです。
悲しいことに、法律実務家にも、フルシチョフ型の交渉をして来られる方がいないではありません。
法廷でにらみ付けられたり、大きな声を出されたりする方もごく稀にみえます。
調停室内で相手方代理人から、机を叩いて大きな声で自分の依頼者の正当性を強弁された、という同業者のぼやきも聴いたことがあります。
でも法律がからむと、フルシチョフ型の交渉は通用しません。
裁判所から、判決、審判を下して頂けばよいからです。