公開会社の定義
公開会社とは、「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを置いていない株式会社」だと定義されています(会社法第2条5号)。
どうも、これはわかりにくいです。
一般の人には分かりやすいのかもしれませんが、法学部の学生だとか、企業法務部の担当者にはわかりにくいのではないかと思います。
正しい読み方から入りますね。
公開会社=A+B
A発行する全部の株式の内容としての譲渡制限規定を置いていない会社
B一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いていない会社
会社には、以下の会社がありえます。
1.発行する全部の株式の内容としての譲渡制限規定を置く会社
2.発行する全部の株式の内容としての譲渡制限規定を置いていない会社(A)
3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社
4.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いていない会社(B)
そして、定義規定からは、
「1.発行する全部の株式の内容としての譲渡制限規定を置く会社」は、Aから非公開会社とわかります。
「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」はどうでしょうか?
問題なのは、この「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」です。
非公開会社ですか?
いいえ、公開会社です。
実は、「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」=「4.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いていない会社」なのです。
「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」は、多分たの種類の株式を発行していて、それについて譲渡制限はないわけですよね。その一部の株式については譲渡制限規定を置いていないのです。わかりますよね。
まさしく、「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」は、一部の株式の内容として譲渡制限規定を置くときに、他の一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いていないのです。
「3.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置く会社」=「4.一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いていない会社」になっているのです。
え、?
当たり前だろ、と思われますか?
そう、簡単ですよね。
なぜわかりにくいなんて申し上げたのでしょうか。
それは、これまでの法律の条文に親しんできていますと、そんなふうには読めないのですよ。
こんな読み方をしませんでしたか?
公開会社=譲渡制限規定を一切置いていない会社
恐らく、法律を勉強した人なら、このように誤解された方も少なくなかったのではないかと思うのです。
実はわたしも条文を素読みしたときにそう思ったのです。(^-^;)
大学教授の書かれた会社法の教科書を読んでみて誤りに気づきました。
なぜ、この条文を誤解してしまうのか、考えてみました。
わたしが馬鹿だからか。
半分は当っています。
しかし、馬鹿でもわかるのが正しい条文立案のあり方ではないでしょうか。
しかも、会社法はわかりやすい条文を心がけられているはず。
何度も、何度も条文を読み返し、考えてみました。
これまでの法律の条文は、基本概念の定義規定の中に否定語が入ることはあまりありません。まず基本概念を肯定後で定義し、基本概念の裏概念を否定後をつけることで、基本概念の付随概念を基本概念に修飾語を加えることで定義しています。
それで、これまでの条文のように素直に読みますと、まず、ア.発行する全部の株式の内容として譲渡制限規定を置いている会社、イ.発行する一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いている会社の2種を頭に浮かべます。
そして、それがダブルで否定されている、と読みます。
しかも、否定されると感じるのが、定義の基本部分、つまり「会社」までは読まず、「会社」特徴づける部分まで、というのがこれまでの法律の条文に馴染んだ人の考え方なのではないか。少なくとも自分は、無意識のうちにそうしていました。
この条文では、「公開会社」の内容を定める訳ですから、ポイントが「公開」の定義にあると思ってしまうのですね。「会社」の定義は、「資本的利回り計算による営利を目的とする社団法人」だから、「公開会社」の定義の中で改めて定義なんてしてもらわなくてよい。「公開」について定義してほしい、という欲求が頭のなかに駆け巡ります。
すると、否定されるのが、a.「発行する全部の株式の内容として譲渡制限規定を置いている」とb.「発行する一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いている」だと思えてしまうのですね。
それで、a.とb.が否定されると、x.「全部の株式の内容として譲渡制限がない」会社と、y.「一部の株式の内容として譲渡制限がない」会社の2つが公開会社ということになる。
そして、ここが多分最も重大なポイント、分かれ目になるのだと思うのですが、b.「発行する一部の株式の内容として譲渡制限規定を置いている」を否定するとき、y.「一部の株式の内容として譲渡制限がない」と単純に考えるのではなく、z.「一部の株式の内容として(も)譲渡制限がない」と(も)を無意識のうちに入れてしまって理解してしまうのですね。
そして、このx.とz.は、要するに、「1種でも譲渡制限があったら非公開」とまとめてしまうことができます。
そういうわけで、上記の誤った定義内容で理解してしまうことになるのですね。
いかがでしょう。
やっぱりわたしが馬鹿なだけだったのでしょうか。
でも同じようにこの条文を理解しにくいと思われた方、こんな理解でどうでしょう。
いろんな理解のされ方でよいと思います。
解答は決まっていて、要はその解法に自分が納得できたら、それでよいのですから。
解法はいくつかあっても、結果に誤りがなければよいのですからね。
おさらいです。
「1種でも譲渡制限があったら非公開」というのは間違いです。
正しくは、「1種でも譲渡制限がなかったら公開」だし、同時に「1種だけなら(でも)譲渡制限があっても公開」なのです。お忘れなく!
<追記>
「公開会社」の定義に関しては、会社法を全体としてみた場合、結局、正しい定義内容に行き着くのですが、どうしてそんな読み方をするのか。これまでの法律の条文に親しんだ人で悩む人は少なくないのではないと思います。
「キーワードで読む会社法」(浜田道代編著、有斐閣) でも、わかりにくいと書いてあります。
それで、いろんな納得の仕方をするしかないのですが、わたしの見たところどの教科書にも、実務指南書にもこれはと思うような説明は書かれていませんでした。
ある高名な司法書士の先生が書かれた本(注:会社法務関係では弁護士よりも司法書士の方が詳しい場合も少なくない)では、最終的な定義内容の説明は誤っていなかったのですが、なぜそう解釈するかの説明がなかなか苦しそうで、多分読まれた方もさっぱりわからないのではないでしょうか。
わたしは、なぜなのか、なぜ素直に読むのと違うのかを考えに考えて、今回ここで書いたとおりの結論に達しました。
これが正しいとは思いません。
わたしの納得の仕方をご披露させていただいただけです。
新会社法の条文は素直に読むこと、これまでの法律の条文(権威的で前提概念を説明しない)とは構成や考え方が違う(かなり親切に細かく)ということを頭に入れておくことが大事だとつくづく思いました。