3.薬物事犯被告人との面談におけるストレス、まれに遭遇する難事件
薬物事犯の国選事件は、若手弁護士にはありがたい仕事ではありますが、やはり、それまでの人生ではまず出会ったことがない、薬物でヨレヨレになってしまった被告人と、少なくとも仕事が続く間は良好な関係を保たねばならないという点では、ストレスがないではありません。
海外の覚せい剤中毒者の顔画像を集めているサイトがあります。
「The horrors of Methamphetamines」
覚せい剤の恐怖ここに出てくるような被告人らと、薄いプラスチック板や鉄格子を介して対面するのは、なかなかのストレスです。
国選事件着手直後の被告人の多くは、薬物が身体から抜けていない、瞳孔は開いたまま、話すことが時に支離滅裂で、怯えていて、なぜか刑事手続において不当に扱われた被害者だという意識が強い場合もあり、信頼関係を築くのが大変です。
先ほど、「薬物事犯は自白事件ばかり情状弁護だけで済むので楽だ」と申したのですが、非常にまれですが、中には、「自分の意思で薬物を摂取したのではないから、無罪を主張してほしい」という被告人もいて、そういう場合には、非常に苦労することになります。
ある事件では、知人から、悪意をもって覚せい剤を混入したカレーライスを食べさせられたと主張がありました。
また、別の事件では、覚せい剤を常用していたが、「もう止めようと思って捨てた。」ところが、捨てる時に食卓のごはんに粉がかかってしまったのに気づかないまま、食べた途端、気分が高揚して、大声で騒ぎたくなって、隣人に通報されたという主張がありました。
この後の方の事件では、裁判官からはしかめつらされ、傍聴人からは大笑いされ、「あの弁護士、大丈夫か?」とささやかれ、挫けそうになりました。
どちらの事件も、否認事件ということになり、証人尋問をしたり、大変な作業を要しました。
結局、どちらも自分の意思で覚せい剤を使用したことに間違いないとされ、有罪とされました。
覚せい剤の前科前歴が複数あったことや、辻褄が合わない弁明があったことで、有罪の心証をとられたようです。
ほとんどの薬物事犯の被告人は、何度も服役しながらも、懲りずに覚せい剤に手を出し、逮捕、服役を繰り返します。
どの被告人にも共通するのは、①常用者が身近にいたり、売人に自ら接近していること、②それと、何度刑務所に入ってもなかなか薬物乱用を止められないこと、です。