1.薬物乱用の現状
まずは、「薬物乱用の現状」について、ご紹介します。
少し古いのですが、厚労省のHPに、『薬物乱用の現状と対策』というPDFになっているレポートがダウンロード可能ですので、ご関心のある方はぜひ御覧ください。
厚労省HPこのレポートでは、
「主要国の薬物別生涯経験率」「我が国における麻薬・覚せい剤検挙人員の推移・覚せい剤事犯再乱用者数の推移」「法規制」などが報告されています。
我が国では、薬物乱用者数は、どちらかといえば減少傾向にあるが、再犯率は上昇しているということがわかります。
薬物乱用は、法律によって規制されており、処罰の対象となります。
また、法律によって規制されている薬物を乱用し、処罰されることになれば、労働者の場合、懲戒手続きを経て解雇されるということにもなります。
※企業による懲戒処分は、刑事処分があれば重くなるでしょうが、刑事処分がなくとも、薬物乱用の事実が認められ、具体的に社内秩序を乱すことがあれば、それに相応した社内懲戒処分が下されることになります。
2.若手弁護士と薬物事犯
私は、もう10年以上前に刑事事件を扱うことをやめましたが、特に、駆け出しの若手の頃には、国選刑事事件を毎月1件は受けていました。
当時、若手弁護士の中で、人気だったのが、覚せい剤を始めとする薬物事犯でした。
その理由は、
(1)被害弁償の必要がない
(2)量刑が明快
(3)簡単な情状弁護だけ、ということです。
薬物事犯は、いわゆる「被害者がない犯罪」です。
傷害事件や窃盗事件のように、明らかに被害者が存在する場合には、弁護人となった弁護士は、被害弁償といって、被害者に面談、電話での話合いを求め、損害金や慰謝料を支払い、処分を軽くしてもらえるような『嘆願書』を書いて貰う活動をしなければなりません。
社会経験が乏しく、個人としての経験上、他人から恨まれたりしたことはなく、また、他人に謝罪することもなかった若手弁護士にしてみれば、『被害弁償』を行うことは精神的に大きなストレスになります。
だから、『被害弁償』をしなくてもよい薬物事犯は、それだけで魅力的です。
また、日本の刑事裁判には、量刑相場というものがあって、「このくらいの事件ならば、判決もこのくらい」という目安がはっきりしています。
中でも、薬物事犯では、より明快で、その当時は、1回目は懲役1年6か月・執行猶予3年~5年、2回目は懲役2年、この2回目が執行猶予期間中ならば合計で3年6か月懲役に行くことになっていました。
この結論は、どんな弁護活動を行ってもほぼ変わりはありません。
さらに、薬物事犯の場合、自分の意思による薬物使用を認めた自白事件がほとんどなので、法廷での弁護も、情状弁護といって、「これこれの事情から、やむを得ず薬物を使用したので、なんとか寛大な処分をお願いします」という弁論を行うだけ済むのです。
このように、国選刑事事件の薬物事犯は、定型的な処理になじむので、弁護ミスが生じる可能性は低く、弁護活動も楽なので、若手駆け出しの弁護士向けの仕事ではありました。