「魂の演技レッスンCLASS9・回想する」(ステラ・アドラー、フィルムアート社)
この本はどの章にもぐっと心を掴む珠玉の言葉がある。
俳優を目指す人でなくても(私も目指しているわけではない)、どんな人にもためになる。
それは他者とコミュニケーションをとって生きている人間であるから。
そして、この本が他者に自分の言いたいことを効果的に伝える技術と考え方を教えようとしているから。
他者に誤解なく言いたいこと、事実を伝える技術については、学校教育や職業教育で学んで行く。
しかし、事実を超えて、自分の思いを効果的にシェアする技術は、学校や職場では必ずしも学べない。
説得したり、共感を得たりするには、事実を正確に伝える技術だけでは少し足りない。
そういうことを体系的、系統的に指導してくれる場所はそうそうはないけれど、演劇は実はそういう場なのだという気がする。
言葉と表情と動作を効果的に使い、受け手の五感を刺激し、意図する認識と感情を掻き立てて、自分の世界に引き込んで行く。世界を共有化させる。
チームワークや組織や社会を成り立たせている根幹にあるものが、それなのだ。
強いチーム、組織、社会にはそれが感じられる。
(強く意識されるようでは本物ではなく、カルトやファシズムだろうが、感じられていなければバラバラで弱く成果を生まない)
リーダーは、うまく周囲を巻き込んでいかなければならない。
社会の中で何かを得たい、与えたい、残したいというならば、技術も備えておかなければ、意図が誤解されたり、届かなかったり。
これは人間のコミュニケーション技術についての本だとも言えるのだ。
この章では、回想について語られる。
回想はごく個人的な体験の一人語り。
自分の夢を過去の体験というお盆に乗せて提示する行為。
「心の中ではっきりとした絵を描きましょう」
「過去の回想に生命を与える」
これは、他者と何かをシェアするときに心がけたいこと。