「教科書や講義案の読み方」(1-1-3)
我妻先生は、最初に、「教科書は暗記するのではなく、理解して読む」「書いてあることはどういう意味かを理解し、なぜそんなことをいうのかを考える」(1-1-3-23)と言われる。
これは本当にごもっともだ。
意味がチンプンカンプンなのに暗記ができるのは幼子だ。
ある程度年端が行くと、意味内容の不明なものの暗記には、余程大きな報奨等の強い動機付けがないと無理。
教科書や講義案に記載されている個々の用語について、その意味内容を理解して暗記し、全体の記載内容を理解するようにしていく。
法律は論理でできているので、法律学の教科書や講義案も同様のつくりになっている。
だから、個々の用語の意味内容が理解でき、前提知識として記憶できていれば、教科書や講義案の文章を順序立てて読んでいけば理解できるようになるはず。
わからない用語は、法律事典を引いたり、索引を使って定義がないか探したり、他の解説書を見て調べたりしたものだが、今はググると出てくるだろう。
それから、「典型的な例を考えてみる」ことを勧められる(1-1-3-24)。
具体例を頭に描いて考えてみるということだ。
以前では予備校のテキスト以外では考えられなかったが、わかりやすい図解で具体的な事例が紹介されている教科書(基本書)があるし、漫画になっている副読本もある。
そういったわかりやすい参考図書を手元に置いて読むとよいだろう。
この節のキモは、「本質の究明につとめること」(1-1-3-26)だと思う。
要するに、制度趣旨、原理原則が何なのかをよく考え、理解しながら読むということだ。
大学の試験でも、国家試験でも、答案は制度趣旨、原理原則を踏まえて展開しなければならない。
いかに法律を理解していたとしても、制度趣旨、原理原則を踏まえて展開されていないと、答案作成者が真に理解して(十分な知力、事案処理ないし紛争解決能力を有して)いるのかどうかわからない。ただ丸暗記したことを書いただけかも知れないと不審がられてしまう。
答案のイメージはこんなところか。
(今はもっとスマートな書き方があるのかも知れない)
◯◯は〜であろうか。
第◯条の「☓☓」の意義が問題となる。
思うに、第◯条の趣旨は、〜であり、□□である。
そうであれば、「☓☓」とは、△△をいうものと解すべきである。
本問で、◯◯は、△△に含まれる。
従って、◯◯は「☓☓」に該当し、〜である。
※制度趣旨は触れたい。そのさらに背景の原理原則は、根っこみたいなもので表に出ると不細工になるので言わずもがなで触れない方がよいことの方が多いだろうと思う。
我妻先生は、この節でも学生に大きな期待を寄せているのがわかる箇所がある。
それは、「本質を発展的に理解する」というところだ(1-1-3-27)。
要するに、時代が変わり、新しい社会現象に対応するために、従前の制度趣旨や原理原則の見直しが必要になり、定義も変更せざるを得ないような状況なって、新しい学説理論を展開したくなったときでも、従前の議論を踏まえて「発展的に」展開して欲しいと求められている。
大多数の学生、法律実務家やビジネスマンになるつもりの学生にはそこまでは要らない。
それと、教科書や講義案、法律を理解するために、「一般的抽象的なものと個別的具体的なものを総合的に理解する」こと(1-1-3-28)や、総論と各論の有機的関係に注意して読み、考えること(1-1-3-29)を勧められている。
木を見て森を見ず、では本当の理解は得られない。
体系的理解をして欲しい、ということだ。
一般的抽象的部分、総論部分の原理原則を理解する。
個別的具体的部分、各論部分の制度趣旨と原理原則との関係を理解する。
法律、そして法律について解説した教科書(基本書)や講義案は、原理原則・制度趣旨という脊髄で貫かれており(もっとも典型的な脊椎動物のようなものもあれば、無脊椎動物に近いものもないではない)、このことがわかると本当に法律の勉強が楽しくてたまらなくなるのだ。
体系的理解ができると、細かいことを暗記しなくても、身につけた体系から未知、初見の難問に対しても、何とか大外れしない解決案を導き出せるようになる。
暗記するな、理解せよ。
体系的理解を自分のものにせよ。