「こころを読む実践家事調停学―当事者の納得にむけての戦略的調停」(飯田 邦男著、民事法研究会)
昨日の通勤電車講座は、家事調停にしました。
この本の著者は、H16年7月現在で水戸家裁下妻支部の「上席主任調査官」であられるといいます。その水戸家裁調査官のナンバー2、下妻支部ではトップということになるのでしょうね。
そして、この本は、飯田調査官の後輩調査官や調停委員に対する研修、勉強会での講義録をもとにしてできたといいます。
家事事件で日頃お世話になる調査官、調停委員の側の情報を知る機会はこれまで案外ありませんでした。たまに、調停委員をされている先輩弁護士から伝え聞く程度でしょうか。
そういうことで、この本を即購入しました。
離婚調停に関しては、「夫婦の基本形」を前提にして考えるのがよい、とありました。
これは、現実にある夫婦一般の関係、大多数の夫婦の生活状況を踏まえつつ、目の前にいる調停当事者の現状を比較してその上で分析するということのようです。
そうすることで、その当事者の当該事案がよく理解できるようになり、事件の関わり方も焦点がしぼれるということです。
この点は、さっと読むと、「あるべき理想型としての夫婦」を想定し、当該事案を批判的に検討するというようにも読めてしまうのですが、そうではないようです。
統計に現れた夫婦関係、これまでの経験で培われた最大公約数としての「夫婦の基本形」から当該事案を眺めてみる。そうすることで、理解が早い、ということでしょうか。
およそ、人がなんらかの判断をするときに役立つのが、基準を設けて、そこからの距離ないし差異をもって分析する、分類することです。
知らず知らずのうちに誰もが行っていることだと思います。
それを意識化する、標準的パターンにしてしまう、ということは効率的であると思います。
問題は、その基準がどこに置かれているか、基準からの距離ないし差異をどう評価してどのように判断に反映させるか、ということだと思います。
また、イレギュラーな事案には柔軟に対応できることも大切ですね。
調査官の仕事は、まず当事者の問題意識や現状を把握して、調停が成立するように助力することにあると思いますが、最終的には裁判官の審判に際しての重要な資料を準備するということでもあります。
当事者の側としても、調査官、そして調停委員という、調停委員会の前線におられるこれらの方々が前提としておられる基礎的前提事実と判断手法を知っておくことは非常に大事なことです。
前提的理解に齟齬があれば、うまく思い通りの結果が得られるときはよきですが、そうでないときは、言いようのない不満が残るのではないかと思います。
家裁事件では、関係者が前提的理解を共通にするということはとても重要です。
地裁事件では、弁護士であれば意識しなくても裁判官と比較的容易に前提的理解を共通にすることは可能です。要件事実というものがあって、どういう事実主張と立証をすればどういう効果が得られるかということについては、裁判官も弁護士も同じ教育を研修所で受けているからです。一般の方でも、論点が少ない事件であれば、なんとか法律書を勉強することで対応できるでしょう。
ところが、家裁事件では、要件事実というものの範囲や数があいまいで、ちゃんと争うならば検討しなければならない事実自体が多いケースが少なくなく(もちろん、論点を細分化すればはっきりはするのでしょうが、細かい事情をすべてきちんと整理することは煩雑ですし、時間的制約もあって事実上は不可能です)、極論を言えば申立の趣旨はあっても拘束されることはありません。
ですから、どこに争点があってどのように処理するのが妥当かという前提的理解がなければ、調停を進めるにも苦労するし、審判移行したときには意外な結果になるということは、判決以上にありうるところだからです。
この本は、家事事件で、男性側に立つ場合には参考になるところがいくつかありました。また、調停委員に対する助言や苦言的なご意見も参考になりました。
それに引用文献が非常に多く、飯田調査官の勤勉さ、読書ぶりが目に浮かぶようで、大変刺激になりました。
斎藤一人さんの言葉に、「本を読まないでやっていける時代ではないですよ。」というのがありますが、いろんな新しい問題も出てくるし、事案も複雑化しています。
いろんな分野にまたがる問題も少なくありません。
この本を読んでから、ネットで「調査官」をぐぐってみました。
http://michiruyana.jugem.jp/?page=1
既に退官された元調査官の赤裸々なお話が読めました。