(2)特定調停
・特定調停とは
簡易裁判所で、専門家の調停委員に間に入ってもらい、特定の債権債務(借金による債務)に関する紛争に関して、債権者である貸金業者と返済計画について話し合い、法定額まで減額して一括返済をしたり、支払回数を増やしてゆるやかに返済できるようにしてもらう手続を言います。つまり、任意整理のように債権者である貸金業者と個別で交渉していくのではなく、簡易裁判所で調停委員に仲介してもらい、その専門知識を借りながら多数の債権者である貸金業者と交渉して返済計画を立てるというものです。
特定調停というのは、経済的に破綻する恐れのある債務者の経済的再生のため、通常
の民事調停の特則として設けられた制度なのです。*( )「民事調停の特則」
・ 申立費用がごく安価
この手続のメリットは、手続費用が安価であるのに、調停委員が間に立って債権者である貸金業者との示談を図ってくれるという点にあります。費用は裁判所によっても違いますが、大体業者1社当たり約八〇〇円程度のようです。
・取引履歴の強制開示が可能(特定調停法第一〇条、一二条、二四条)
この手続をとるメリットの一つには、取引履歴を教えてくれない業者に対し、簡易裁判所の力で強制的に取引履歴を明らかにさせることができる点にあります。
弁護士に依頼した場合には、たいていの貸金業者は最終的には取引履歴を開示してくれます。ただ、弁護士が要求しても、過払いまでは行かなくとも、利息制限法に引き直すと大幅に減額され、借金がほとんど消えてしまうような事案では厳しい抵抗に遭います。ましてや、本人が独力で貸金業者と交渉しようとしたときには、貸金業者にとっては不利となり得る取引履歴を簡単には教えてくれるとは思えません。
そうしたとき、特定調停によるならば、取引履歴を明らかにしてもらって、きちんと利息制限法に引き直して残金が一体どれだけなのかを確定させることができます。
・強制執行の停止(特定調停法第七条)
特定調停を申し立てると、既に行われている差押え、競売(本執行)を場合により無担保で停止できるというメリットもあると言われています。ただ、無担保で停止できる可能性が開かれた、という限度であり、当然無担保で停止できるわけではありません。実際無担保で停止決定された例はほとんどないようです。
・デメリット
特定調停は、多数の債権者を相手に裁判所の助力を得ながら、本人が独力で利息制限法に引き直した適正な残金をもとにした返済計画を立てられるメリットがあります。
しかし、特定調停では、裁判所が関与するので、ある程度の期間内に(一ヶ月に一回の話し合いで少なくとも二〜三回かかる)、残金を利息制限法に引き直した上で終了します。
貸金業者との交渉が成立すると調停調書が作成されます。また、話し合いがつかない場合には、簡易裁判所が返済計画を策定して決定を下します。調停証書や決定書は判決と同じ効力がありますので、調停で決まった返済計画通りに返できなくなると、直ちに給与差押えなどの強制執行を受けてしまいます(任意整理では、和解契約どおりの返済ができなくなっても、すぐさま強制執行はされません)。
また、弁護士が任意整理する場合に比べると、弾力的な解決が図られないということも言えます(早期の解決、時間やさまざまな条件を利用した駆け引きなどができません)。
また、裁判所を介した割には任意整理と同じ程度の減額しか得られません。そして、概ね三年から五年以内(殆どの裁判所では三年以内)に分割して完済できるような場合でないといけません。
大幅な借金の減額を得るならば、民事再生によるしかありません。
ですから、弁護士を頼んでまでしてする手続ではなく、自分だけで債務整理をするのが不安だという場合に選択する手続ということになります。
そして、調停は、あくまでも「話し合いによる互譲による解決」ですから、業者が受け入れられるような案でなければ成立しません。ごく低額過払い金の全額返還など、両者の対立が厳しければ成立しません。