その昔、わたしは名古屋地裁で裁判修習を受けていました。
ある部長判事について指導を受けました。
寡黙でまじめな方。
ある日の昼休み、新聞を読んでおられました。
「○○氏の△△の技能、無形文化財に指定」という見出しが。
部長判事がポツリとおっしゃいました。
「明けても暮れても、判決、判決。わしだって判決職人だよな。だれも表彰はしてくれんけどね。」
そうおっしゃって、ひとりで「ふ〜っ。」と吐息をされました。
当時かなりたくさんの事件が部長に配点されていました。
毎日、毎日安定的にコツコツと、感情のアップダウンなく、朝早くから夜まで、しっかりと仕事をされる方でした。
そのころ、別の判事から支部勤務をされていた先輩判事が過労で判事室で倒れていたのを出勤して来た事務官さんに発見された、なんていうお話を聞いていましたので、心配になりました。
判事の仕事は地味な仕事です。
孤独な仕事ですね。
裁判所職員に囲まれてはいるけれど、仕事の中身は自分1人の責任。
いつも重い責任が肩の上にのしかかる。
判事の仕事はそういう仕事。
実は、すべてのビジネスマンの仕事が本来はそうあるべき。そうあるはずなのではないでしょうか。
従業員であっても、任された仕事には責任を引き受けていかねばなりません。
判事はその引き受けるべき責任の重さが明示されています。
ビジネスマンの多くは責任をあまり意識しないで、上司任せ、他人任せにしていても、とりあえずなんとかまわっていきます。しかし、同じ従業員であっても、与えられた仕事の責任を引き受けて行ける人、そうでない人とでは、将来格段の違いが出て来ると思います。
わたしは今日は書面作成に没頭しておりました。
ご依頼者の権利義務の変更に関わる重要な書面から、報告文書まで。
「文書作成マシーン」だなぁ、と不平を言いたくなりそうになったとき、指導していただいた判事の孤独な姿を思い出しました。
そして、「まだまだ甘いぞ!」と自分自身に気合いを入れました。
そろそろ退官されたはずの恩師にまた会いたくなりました。
お元気でいらっしゃるのでしょうか。。